2026.06.20
この記事のまとめ
- 不動産価格の上昇は、外国人投資や投資マネーだけでは説明しきれません
- 現場では、建築費の高騰が新築・建替え・再開発の大きな制約になっています
- 建築費が大きく上がっても、賃料は同じ速度では上がらないため、収支が合いにくくなっています
- RC造・S造・木造の単純比較だけでなく、敷地条件・搬入条件・施工会社の対応可否まで含めた検討が必要です
- 今は「建てるかどうか」だけでなく、「建てない場合の出口」も同時に考えるべき市況です
近年、不動産価格の上昇について、「外国人投資家が買っているから」「投資マネーが流入しているから」と説明されることがあります。
たしかに、都心部や一部のマンション市場では、国内外の投資資金が価格を押し上げている面はあります。国外居住者による取得や短期売買が増えているエリアがあることも事実です。
しかし、不動産価格の上昇をそれだけで説明するのは、やや単純化しすぎだと感じます。
不動産を所有し、建物を維持し、建替えや修繕を検討している現場感覚でいうと、現在もっとも大きな問題は、建築費が高すぎて収支が合わなくなっていることです。
特に、「古いビルや収益不動産を持っているが、建て替えるべきか・修繕して使い続けるべきか・売却すべきか判断がつかない」「建築費が高すぎて建替え計画が止まっている」という不動産オーナーにとって、いま必要なのは、建築費だけを見るのではなく、複数の出口を並べて比較することです。
不動産価格は「買う人」だけでなく「つくる費用」でも決まる
不動産価格は、需要だけで決まるものではありません。
もちろん、買いたい人が多ければ価格は上がります。投資マネーが入れば、利回り目線で価格が押し上げられることもあります。
一方で、不動産価格にはもう一つ重要な要素があります。
それが、その不動産を新しくつくるためにいくらかかるのかという視点です。
建物を新築するための費用が大きく上がれば、完成後の売却価格や賃料も、それに見合う水準まで上げなければ事業として成立しません。
仮に、以前は10億円で建てられた建物が、今は20億円かかるとします。
この場合、単純に考えれば、売却価格も賃料も大きく上げなければ採算が合いません。ところが、実際の市場では賃料をすぐに2倍にすることはできません。
ここに、現在の新築・建替え案件の難しさがあります。
建築費の上昇が、収益不動産の利回りを圧迫している
収益不動産の場合、建築費と賃料の関係は非常に重要です。
例えば、建築費が10億円で、年間賃料収入が6,000万円見込める建物であれば、単純な表面利回りは6%です。しかし、同じ建物を建てるための費用が20億円になった場合、年間賃料が同じ6,000万円のままであれば、表面利回りは3%まで下がります。賃料が多少上がって年間7,000万円程度になったとしても、利回りは3.5%にとどまります。
つまり、建築費が大きく上がる一方で、賃料が同じ速度で上がらない場合、利回りは大きく低下するということです。
近年、都心部を中心に賃料は上昇傾向にあります。ただし、それでも建築費の上昇幅に比べれば、賃料の上昇は限定的です。しかも、賃料は思うように上げられないのが実情で、特に古い普通借家契約が残っていると、相場との差を簡単には埋められません(参考:古い普通借家契約が、建替え・賃料改定の足かせになるとき)。このズレが、新築案件や建替え案件を非常に難しくしています。
そのため、当社が現在進めている案件では、考え方の順番を決めています。まず想定できる賃料をある程度固め、保有するのか売却するのか、立地などの条件もふまえて、目標とする利回りを設定します。そのうえで、「建築費がこの水準で収まらなければ、事業として成立しない」という上限を先に決め、その範囲で建築会社と計画を詰めていきます。建築費が先にあって賃料を後から合わせるのではなく、出口(利回り)から逆算して、許容できる建築費の上限を握る——この順番を崩さないことが、建築費が高い時代の判断では特に重要になります。
「RCが高いからS造」「S造が高いから木造」と単純にはいかない
建築費が上がっている中で、構造を変えればコストを抑えられるのではないか、という検討もよく行われます。
たとえば、RC造が高いからS造にする。S造が高いから木造にする。こうした考え方です。しかし、現在はそれほど単純ではありません。
RC造が高いのはもちろんですが、鉄骨価格や施工体制の問題から、S造の方が高くなるケースもあります。さらに、一定規模以上の木造建築では、防火・耐火・構造・施工手間などの関係で、結果的に木造が最も高くつくこともあります。
また、建築費は構造だけで決まるものではありません。
- 前面道路が狭い
- 私道権者の承諾が必要
- 大型車両が入れない
- 近隣との離隔が厳しい
- 解体や搬入に制約がある
- 用途地域や高さ制限の影響を受ける
こうした条件が重なると、同じ延床面積でも建築費は大きく変わります。
実際に、当初はRC造を想定していたものの、私道関係者の承諾が得られず、大型車両の搬入が難しいため、やむを得ず木造で計画したという話もあります。その場合、結果としてRC造想定よりも大きく建築費が上がったと聞いています。
つまり、今の建築計画では、構造の比較だけでなく、敷地条件・搬入条件・近隣条件まで含めて検討しなければ、正しい判断ができません。
建設会社・デベロッパーも案件を選ぶ時代になっている
もう一つ大きな変化があります。それは、建設会社やデベロッパーが、以前よりも案件を選ぶ傾向が強くなっていることです。
以前であれば5億円未満の案件を受けていた会社が、今は10億円以上の案件を中心に見る。20億円未満の案件を受けていた会社が、今は50億円以上を中心に見る。こうした感覚の変化を、現場では感じます。
受注側からすれば、人手も資材も限られている中で、採算性が低く、手間がかかり、リスクの高い案件を無理に受ける必要がありません。その結果、発注者側から見ると、次のような状況が起こりやすくなっています。
- 相見積もり前提だと参加してもらえない
- 概算見積りの段階でかなり高い金額が出る
- 着工時期がかなり先になる
- 価格調整の余地が小さい
- 仕様変更による減額効果が限定的
- 小規模・複雑・制約の多い案件ほど後回しになりやすい
ある大手デベロッパーと話をした際には、着工の約1年半前に仮契約を結び、着工の約1か月前に見積りを提示して本契約、という進め方を示されたことがあります。これは、発注者側から見ると、価格を比較しながら柔軟に調整する余地がかなり限られるということです。
以前のように、複数社から見積りを取り、条件を比較し、VE案を出してもらいながら詰めていく、という進め方が難しくなっている案件もあります。
規模が上がった会社に、その規模の技術と体制があるか
建設会社やデベロッパーの受注レンジが上がると、別の問題も出てきます。
これまでより大きな規模の案件を受ける会社が増えるということは、発注者側としては、その会社に本当にその規模の技術・管理体制・施工経験があるのかを慎重に確認する必要があるということです。会社規模や知名度だけでは判断できません。
確認すべきなのは、たとえば次のような点です。
- 同種・同規模の施工実績があるか
- 現場代理人や管理体制が十分か
- 見積りの前提条件が明確か
- 追加工事が発生しやすい項目が整理されているか
- 工程遅延時のリスク分担が明確か
- 近隣対応や行政協議に慣れているか
- 竣工後のメンテナンスまで見ているか
建築費が高くなっている今、見積金額だけで決めるのは危険です。安く見える見積りでも、前提条件が甘ければ、後から追加費用が発生する可能性があります。逆に、高く見える見積りでも、リスクを織り込んでいる場合もあります。
重要なのは、単に「安い会社」を探すことではなく、その案件に合う会社を選び、事業全体のリスクを下げることです。
施工会社の信用力と支払い条件にも注意する
建築会社選びでは、技術力や管理体制に加えて、会社の信用力と支払い条件も見落とせません。当社が現在ご相談を受けている案件に、次のようなケースがあります。
一戸建ての建築を計画した方が、インターネットで建築会社を探し、社歴のある三代目の会社で、ある建築工法の先駆者として各地でセミナー実績もあったことから、信頼して発注しました。ところが、手付金と中間金を支払った段階で社長と連絡が取れなくなり、その後、弁護士を通じて会社の破産が知らされました。工事は上棟直後で止まったままです。
この段階から工事を引き継いでくれる建築会社は、ほとんどありません。他社が途中まで手がけた建物の建築責任を負えないためです。建て直すには、今建っているものを一度解体して、改めて建てる必要があります。しかし、すでに中間金まで支払っているため、その資金も残っていません。
この事例が示すのは、社歴・知名度・セミナー実績といったネット上の情報だけでは、会社の財務の健全性までは分からないということ、そして工事の出来高を超えて手付金や中間金を前払いしていると、会社が倒産したときの損失が一気に大きくなるということです。これは一戸建てに限らず、ビルや収益不動産の建築・建替えでも同じです。
建築会社を選ぶ際には、金額や知名度だけでなく、次のような点も確認しておくと安心です。
- 会社の財務状況や信用情報
- 支払いが工事の出来高に見合っているか(前払いに偏っていないか)
- 万一の倒産に備えた完成保証などの仕組みの有無
- 契約内容と保証の範囲
建築費が高く、工期も長くなりやすい今の市況では、こうした「会社が最後まで建て切れるか」というリスクの確認が、これまで以上に重要になっています。
建築費が上がると、街の更新も止まりやすくなる
建築費の高騰は、個別のオーナーだけの問題ではありません。街全体にも影響します。
実際に街を見ていると、建築計画の看板だけが長く立ち続けている現場や、再開発の話はあるものの一向に進まないエリアが目につくことがあります。もちろん、理由は建築費だけではありません。権利関係、行政協議、近隣調整、資金調達、テナント調整など、複数の要因が絡みます。
しかし、建築費が上がれば上がるほど、事業収支のハードルは高くなります。その結果、次のような判断が増えていきます。
- 建替えを先送りする
- 修繕で延命する
- 空室のまま様子を見る
- 計画を縮小する
- 売却を検討する
- 共同事業化を検討する
これは、不動産オーナーにとっても、街にとっても大きな問題です。古い建物が更新されにくくなれば、安全性・利便性・景観・地域の活力にも影響します。
今の市況で必要なのは「建てる前提」ではなく、複数の出口比較
現在の不動産市況では、最初から「建てる」「売る」「貸す」と決め打ちしない方がよいケースが増えています。特に、次のような不動産では、早い段階で複数の選択肢を比較することが重要です。
- 築年数が古く、大規模修繕や建替えが必要になっている建物
- 空室が増えている収益不動産
- 相続後、今後の方針が決まっていない不動産
- 借地権・共有持分・私道・接道など、権利関係に課題がある不動産
- 建替えたいが、建築費や施工会社選定で判断が止まっている土地
- 売却すべきか、保有すべきか、活用すべきか迷っている不動産
このような場合、検討すべきなのは建築費だけではありません。少なくとも、次の観点を並べて比較する必要があります。
- 建替えた場合の総事業費
- 想定賃料と空室リスク
- 修繕で保有を続けた場合のコスト
- 既存建物のまま売却した場合の価格
- 更地化した場合の価格
- 権利関係を整理した場合の価格
- 共同事業や等価交換の可能性
- 相続・法人資産・借入との関係
実際、当社が関わった案件でも、「建てない判断」が結果的に資産を守ったケースがあります。ある顧客の古いビルでは、当初は建替えを前提に検討を進めていましたが、建築費の高騰で事業収支がどうしても合いませんでした。そこで建替えは見送り、外壁・防水・室内リフォームなど必要な部分の修繕にとどめたうえで、改めてリーシング(賃貸募集)を行い、稼働を回復させました。
また、当社が保有する物件でも、建築費の高騰を受けて、建替えではなく耐震工事を選び、建物を使い続けている事例があります。建替えありきで考えれば「古い・採算が合わない」で止まってしまう局面でも、修繕・耐震・賃貸継続まで含めて比較すると、現実的な落としどころが見つかることがあります。
なお、借地・底地・共有持分など権利関係に課題がある不動産では、出口を検討する前に、その整理が必要になります(参考:借地権とは?相続・売却・建替えで注意すべきポイント/相続した実家の共有持分トラブル)。
建築費が高い時代には、「建てれば何とかなる」という考え方は危険です。むしろ、建てない選択肢を含めて比較することが、結果的に不動産の価値を守る判断につながります。
不動産価格の高騰を、誰か一つの原因に押し付けない
不動産価格が上がると、どうしても分かりやすい原因を探したくなります。外国人投資家が買っているから。投資マネーが流入しているから。大手デベロッパーが価格を上げているから。それらがまったく関係ないとは言いません。
しかし、現場で不動産を見ていると、それだけでは説明できない構造的な問題があります。建築費が上がっている。人手が足りない。資材が高い。施工会社が案件を選ぶ。見積りが取りにくい。賃料は上がっているが、建築費ほどは上がらない。権利関係や敷地条件によって、さらにコストが膨らむ。
こうした複数の要因が重なって、不動産価格や賃料、建替え判断に影響しています。だからこそ、今必要なのは、感情的な議論ではなく、個別の不動産ごとに、収支・権利関係・建築条件・出口を冷静に整理することです。
建築費高騰と建替え判断に関するよくある質問
Qなぜ今、建築費が上がっているのですか?
資材高・人手不足・施工体制の制約が重なっているためです。資材価格の上昇に加え、職人や現場の不足、施工会社が採算の取りやすい案件を選ぶ傾向などが重なり、同じ建物でも以前より大きくコストがかかるようになっています。
Q建て替えと修繕、どちらが得ですか?
ケースによって異なり、必ずしも建替えが有利とは限りません。建築費が高い局面では、建替えの総事業費が想定賃料に見合わないこともあります。修繕・耐震補強で使い続ける、売却する、といった選択肢と同じ土俵で比較することが大切です。
Q今は建てるべきですか、待つべきですか?
「建てる前提」で考えないことが出発点です。建築費・想定賃料・空室リスク・修繕継続のコスト・売却価格などを並べて比較し、建てない選択肢も含めて判断するのが安全です。物件ごとに答えは変わります。
Q小規模で複雑な案件ほど後回しにされるのはなぜですか?
施工会社が採算と手間で案件を選ぶようになっているためです。人手も資材も限られるなか、採算性が低く手間やリスクの大きい案件は優先されにくくなっています。早めの相談・計画が、選ばれる側に回るうえで重要です。
Q建築会社は金額だけで選んでよいですか?
金額だけで選ぶのは危険です。安く見える見積りでも前提条件が甘ければ追加費用が発生します。同種・同規模の実績、管理体制、見積りの前提、追加工事リスクの整理まで含めて、案件に合う会社を選ぶことが大切です。
Q工事の途中で建築会社が倒産したらどうなりますか?
工事が止まり、引き継ぎも難しくなります。他社は建築責任の問題から途中の工事を引き継ぎたがらず、建て直しになると解体からやり直しになることもあります。前払い金が戻らないこともあるため、出来高に応じた支払いや完成保証の有無を、契約前に確認しておくことが重要です。
まとめ:建築費高騰時代の不動産判断は、早めの整理が重要
建築費が上がっている今、新築・建替え・再開発の判断は以前よりも難しくなっています。賃料や売却価格が上がっているからといって、必ずしも事業収支が改善しているとは限りません。むしろ、建築費の上昇幅の方が大きく、利回りや採算性が悪化している案件もあります。
また、施工会社やデベロッパーの選定も簡単ではありません。相見積もりが取りにくく、価格交渉の余地も限られ、敷地条件によっては想定以上のコストが発生することもあります。
不動産オーナーにとって重要なのは、早い段階で複数の選択肢を比較することです。建てるのか、修繕して保有するのか、用途を変えるのか、権利関係を整理するのか、売却するのか。これらを個別に考えるのではなく、同じ土俵で比較することで、初めて現実的な判断ができます。
建替え・修繕・売却・保有で判断に迷っている方へ
オリンピア興業では、自社でも不動産を所有・運営してきた立場から、建築費・賃料・修繕・売却価格・権利関係を含めて、不動産の今後の選択肢を整理するご相談を承っています。
「建て替えるべきか」「このまま保有すべきか」「売却も含めて比較したい」といった段階でもご相談いただけます。まずは状況をお聞きし、取り得る選択肢を一緒に整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の建築費、賃料、売却価格、税務・法務上の判断を保証するものではありません。具体的な判断にあたっては、対象不動産の条件に応じた個別検討が必要です。記事内の事例は、個人や物件が特定されないよう内容を一部変更・抽象化しています。