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COLUMN

古い普通借家契約が、建替え・賃料改定の足かせになるとき

2026.06.22

この記事のまとめ

  • 普通借家契約は、貸主側の都合だけで更新終了や大幅な賃料改定を進めにくい契約形態です
  • 賃料増額請求は制度上可能ですが、継続賃料の考え方があるため、いきなり現在の新規相場まで引き上げられるとは限りません
  • 古いビルで安い賃料の普通借家契約が残っていると、建替え・売却・再生計画の大きな障害になることがあります
  • 商業ビル・事務所ビルでは定期借家契約の活用が進み、近年は賃貸マンションにも広がっています
  • ただし、普通借家契約にも安定稼働や借主側の安心感というメリットがあり、すべてを定期借家にすべきという話ではありません

不動産オーナーにとって、賃貸借契約の種類は単なる契約書上の違いではありません。

特に、古くから続いているビルや店舗、事務所では、契約当初の安い賃料のまま普通借家契約が更新されているケースがあります。表面上は長期入居で安定しているように見えても、いざ賃料改定、建替え、売却、用途変更を検討する段階になると、この古い普通借家契約が大きな制約になることがあります。

とくに、「建築当初からの古いテナントが相場より安い賃料で残っている」「普通借家契約のため賃料改定が思うように進まない」「建て替えたいが既存テナントとの契約が足かせになっている」「売却前に契約関係を整理したい」という商業ビル・事務所ビル・店舗のオーナーにとって、契約形態の整理は出口を左右する重要な論点です。

近年、商業ビルや事務所ビルでは定期借家契約を採用するケースが増えています。さらにここ数年は、都心部の賃貸マンションでも定期借家契約の割合が上がってきています。背景には、物価上昇、修繕費・管理費の増加、賃料相場の上昇、そして将来の建替えや資産活用を見据えたオーナー側の意識変化があります。

この記事では、普通借家契約と定期借家契約の違いを、特に「賃料改定」と「建替え・出口戦略」の観点から、当社自身の保有・管理の経験も交えて整理します。

周辺相場が上昇しても普通借家契約の継続賃料は上がりにくく、賃料差が広がることを示す概念図


普通借家契約は貸主の都合だけで更新終了しにくい

普通借家契約は、借主の居住や営業の安定を守る性質が強い契約です。

そのため、契約期間が満了したからといって、貸主が当然に契約を終了できるわけではありません。貸主側から更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするには、建物を使う必要性、これまでの契約経緯、建物の利用状況、建物の現況、立退料の提示などを含めて、正当事由があるかどうかが問題になります。

これは借主保護の観点から見れば合理性があります。住居であれば生活の基盤、店舗や事務所であれば営業の基盤そのものだからです。

一方で、オーナー側から見ると、建物が古くなった、修繕費が増えた、周辺相場が上がった、建替えをしたい、売却したいという事情があっても、それだけで直ちに契約を終了できるわけではありません。

特に築年数の古いビルでは、この点が資産活用の大きな論点になります。

普通借家契約の賃料増額は、相場まで届くとは限らない

普通借家契約でも、賃料の増額請求がまったくできないわけではありません。

土地・建物にかかる税負担の増減、建物価格や経済事情の変動、近隣同種物件の賃料との比較などにより、現在の賃料が不相当になった場合には、貸主・借主の双方が将来に向かって賃料の増額または減額を請求できる制度があります。

ただし、ここで注意すべきなのは、オーナーが「周辺相場が坪単価2万円だから、来月から同じ水準にします」と一方的に通知すれば、その通りになるわけではないという点です。

借主が増額に応じなければ、協議が必要になります。協議がまとまらなければ、調停や訴訟などの手続を検討することになります。その過程では、単純な新規募集賃料だけでなく、これまでの契約経緯や直近の賃料合意、改定履歴、建物の状況なども考慮されます。

当社が保有・管理する物件でも、この実感ははっきりあります。普通借家契約の賃料は、大幅な増額が難しいことが多く、借主の協力を得て改定できても、現在の相場水準まで届かないケースが少なくありません。「制度上は可能でも、実務上は段階を踏む必要がある」というのが実態に近いといえます。

実際に当社が賃料改定や契約整理を進めた例を挙げると、次のようになります。

用途 改定前の賃料 周辺相場 結果
住居 94,000円 105,000円 5,000円の増額(99,000円)。相場には届かず
住居 122,000円 145,000円 賃料は据え置き、定期借家契約へ切替
商業 420,000円 500,000円 50,000円の増額(470,000円)。相場には届かず

このように、増額できても数千円から数万円にとどまり、相場との差はなお残るのが実態です。賃料を大きく上げにくい場合でも、賃料は据え置いたうえで契約形態を定期借家に切り替え、将来の賃料や条件を見直す余地を確保する、という整理の仕方もあります。

賃料改定で重要な「新規賃料」と「継続賃料」の違い

賃料改定を考えるうえで重要なのが、「新規賃料」と「継続賃料」の違いです。

区分 どんな賃料か
新規賃料 いまその区画を新しく募集した場合に成立し得る賃料。周辺の募集・成約事例、立地、面積、設備、用途などから考える
継続賃料 すでに貸主・借主の関係が続いていることを前提にした賃料。過去の契約内容、改定の経緯、直近で合意した賃料、長年の利用実態などが考慮される

そのため、現在の市場相場が大きく上がっていたとしても、継続中の普通借家契約で、いきなり新規募集賃料と同じ水準まで引き上げることは簡単ではありません。

特に直近の更新時に、現在の賃料で契約更新をしている場合には、「その時点で一度その賃料に合意している」と見られやすくなります。もちろん、その後に経済事情が大きく変われば増額請求の余地はありますが、更新直後に大幅増額を求める場合は、説得材料の整理がより重要になります。

古い安い賃料の普通借家契約は、建替え・立退き時の障害になりやすい

普通借家契約で古い賃料のまま入居しているテナントがいる場合、建替えを検討する際に大きな論点になります。

建替えをするには、原則として既存テナントに退去してもらう必要があります。しかし普通借家契約では、貸主の都合だけで簡単に退去を求めることはできません。そこで、実務上は立退き交渉が必要になります。このとき、現在の賃料が相場よりかなり低い場合、その差額が交渉上の大きな要素になることがあります。

当社が関わった例でも、これははっきり表れました。ある都心の路面店では、建物の竣工当初から営業を続けるテナントがいて、賃料も当初のまま、長く相場を大きく下回っていました。建替えにあたって立退きを相談したところ、同じ条件(同程度の立地・スペック・賃料)の移転先が見つからないこともあり、テナント側からは当初家賃の約300ヶ月分という立退料を求められました。月額の300ヶ月分は、およそ25年分の家賃にあたります。最終的には交渉を重ねて立退料を引き下げる形で合意しましたが、古く安い賃料が、いかに大きな交渉コストに化けるかを示す例です。

一方で、対照的なケースもあります。当社が所有するビルの2階の飲食店は、当社が建物を取得した時点で、前のオーナーと親しく、オーナーに代わって定期的にペットの世話をするという約束も兼ねて、相場の3分の2ほどの賃料で長く入居していました。やはりその条件では周辺に代替物件がなく、後継となる移転先探しには苦労しました。最終的には、都心の駅から少し離れた場所への移転を受け入れてもらう形で解決しましたが、これは借主側が協力的に動いてくれた、比較的珍しいケースでした。

この2件は、いずれも最終的に建替え・再生へと進みました。立退きが円満に進むかどうかは相手次第の面が大きく、古い安い賃料の普通借家契約が残っているビルほど、建替えにかかる時間とコストが読みにくくなるということです。

普通借家契約の現在賃料と周辺相場の差が、立退料や建替えコストに影響することを示す概念図

そのため、立退きをお願いする際には、単に引越費用や内装費だけでなく、営業継続利益、移転に伴う損失、現在賃料と相場賃料との差、これまでの契約経緯などが交渉材料になります。法律上の厳密な意味で「既得権」と断定するのは避けるべきですが、実務上は、借主側に経済的な利益が生じている状態と評価されることがあります。

古い普通借家契約は、売却価格や再生計画にも影響する

この問題は、建替えだけに限りません。

収益物件として売却する場合も、買主は現在の賃料、契約形態、契約期間、更新条件、退去可能性を確認します。市場相場より低い賃料で普通借家契約が長く続いている場合、将来的な収益改善の余地がある一方で、実際に賃料を上げられるか、退去を求められるかは不確実です。そのため、買主側の評価では、単純に「相場賃料に直せば利回りが上がる」とは見てもらえないことがあります。

また、ビルをリニューアルして用途変更する場合や、区画を再編して新しいテナントを誘致する場合にも、既存の普通借家契約が残っていると計画の自由度が下がります。

古い契約は、単なる過去の書類ではありません。将来の売却価格、建替え可能性、リニューアル計画、資金調達にも影響する重要な資産管理上の論点です。

普通借家契約と定期借家契約の違い【早見表】

ここまで見てきた普通借家契約の特徴を、定期借家契約と並べて整理すると、違いがはっきりします。

観点 普通借家契約 定期借家契約
契約の更新 原則として更新される(法定更新あり) 期間満了で終了(再契約は双方の合意があれば可)
貸主からの終了 正当事由や立退料が必要で、ハードルが高い 所定の手続を満たせば期間満了で終了しやすく、計画が立てやすい
賃料改定のしやすさ 継続賃料の考え方があり、相場まで上げにくい 再契約時に賃料や条件を見直せる
借主の安心感 高い(長く使い続けやすい) やや低い(再契約できない可能性がある)
建替え・売却など出口対応 既存契約が障害になりやすい 出口から逆算して計画しやすい
向いているケース 安定稼働・長期入居を重視/競争力がそれほど高くない物件 将来の建替え・再開発予定/条件を定期的に見直したい物件

商業ビル・賃貸マンションで定期借家契約が増えている理由

定期借家契約は、所定の手続を満たしていれば、あらかじめ定めた期間の満了により、更新されずに終了する契約です。貸主と借主の双方が合意すれば、再契約することはできます。

商業ビルや事務所ビルでは、以前から定期借家契約が活用されてきました。特に、将来的な建替えや再開発の可能性がある物件、テナント構成を一定期間ごとに見直したい物件、館全体のブランドや運営方針を重視する商業施設では、普通借家契約よりも定期借家契約の方が計画を立てやすい場面があります。

近年は、賃貸マンションでも定期借家契約の活用が広がっています。背景には、物価上昇による管理費・修繕費の増加、家賃相場の上昇、長期入居に伴う各種リスクへの対応があります。

この動きは、調査データにも表れています。アットホームの調査によると、2025年度は首都圏の賃貸マンションで定期借家物件の割合が全エリアで上昇し、東京23区では前年度比2.7ポイント増の9.2%となりました。特に専有面積70平方メートルを超える大型ファミリー向け物件では、前年度比4.4ポイント増の34.9%に達しています。物価が上昇するなかで、再契約時に家賃などの条件を見直しやすい定期借家が、貸主側のニーズの受け皿になっているとされます(出典:日経MJ(アットホーム調査))。

当社でも、現在は新規の賃貸借契約を原則として定期借家契約で結んでいます。過去からの普通借家契約についても、再契約や入替えの機会をとらえて、定期借家への切替を順次進めています。将来の建替えや出口を見据えると、契約形態をそろえておくことが、資産運用上の選択肢を確保することにつながるからです。

ただし、定期借家契約は万能ではない

一方で、定期借家契約には注意点もあります。

まず、借主にとっては「再契約できない可能性がある」という不安があります。そのため、立地や設備、賃料条件などに魅力がない物件では、定期借家契約にすると募集上不利になることがあります。

また、定期借家契約を有効に成立させるには、契約書の作成だけでなく、契約の更新がなく期間満了により終了することについて、事前に書面で説明する必要があります。契約期間が1年以上の場合には、満了前の一定期間内に終了通知を行う必要もあります。手続を誤ると、想定していたように契約終了を主張できないリスクがあります。

したがって、定期借家契約は「オーナーに有利だから使えばよい」という単純なものではありません。物件の競争力、借主の属性、契約期間、再契約方針、将来の建替え予定まで含めて設計する必要があります。

普通借家契約にもオーナー側のメリットはある

ここまで読むと、普通借家契約はオーナーにとって不利な契約のように見えるかもしれません。しかし、普通借家契約にもメリットはあります。

第一に、借主に安心感を与えやすい点です。長く住みたい人、長く営業したい店舗、移転コストが大きい事業者にとって、普通借家契約は受け入れやすい契約形態です。

第二に、空室リスクの低減です。立地や建物スペックに強い競争力がない物件では、定期借家契約にすることで申込みが減る可能性があります。普通借家契約の方が募集しやすく、結果として安定稼働につながることもあります。

第三に、長期的な関係を築きやすい点です。地域密着型の店舗、長年営業している事業者、建物全体の雰囲気を支えているテナントなどは、単に賃料だけでは測れない価値を持つことがあります。

第四に、管理実務が比較的シンプルな点です。定期借家契約では、事前説明、契約満了通知、再契約手続などを適切に管理する必要があります。小規模物件や管理体制が整っていない物件では、普通借家契約の方が運用しやすい場合もあります。

つまり、普通借家契約が悪い、定期借家契約が正しい、という話ではありません。重要なのは、物件ごとの出口や運営方針に合った契約形態を選ぶことです。

古い普通借家契約は、建替え・売却前に棚卸ししておくべき

ビルや賃貸物件を保有しているオーナーは、将来の建替えや売却を考える前に、まず既存契約の棚卸しをしておくことが重要です。特に確認したいのは、次のような項目です。

これらを整理しておくことで、賃料改定を進めるべきか、段階的に交渉するべきか、将来の建替えに向けてどのタイミングから話を始めるべきかが見えやすくなります。反対に、契約内容を把握しないまま「相場より安いから上げたい」「古いから建て替えたい」と動き出すと、想定以上に時間と費用がかかることがあります。

なお、借地・底地など土地の権利関係が絡む建物では、契約形態に加えて権利関係の整理も必要になります。あわせて借地権とは?相続・売却・建替えで注意すべきポイントもご確認ください。

普通借家か定期借家かは、出口戦略から逆算して考える

賃貸経営では、目先の賃料だけでなく、将来の出口から逆算して契約を設計することが重要です。

長期保有して安定稼働を重視するのか。数年後に建替えを検討しているのか。売却の可能性があるのか。大規模修繕後に賃料水準を見直したいのか。テナント構成を入れ替えて建物全体の価値を上げたいのか。この方針によって、普通借家契約が適している場合もあれば、定期借家契約を検討すべき場合もあります。

特に古い商業ビルや事務所ビルでは、契約当初から時間が経過し、現在の相場や建物の状態と契約内容が合わなくなっていることがあります。そのズレを放置すると、賃料改定、建替え、売却、相続、管理承継の場面で問題が表面化します。

また、建替えを選択肢に入れる場合は、契約だけでなく建築費の動向もあわせて見ておく必要があります。近年は建築費が大きく上がり、建替えの採算判断が難しくなっています(参考:不動産価格高騰の本当の要因|建築費高騰と賃料の限界)。

契約は、締結した時点で終わりではありません。資産を守り、活かし、次の世代や次の活用につなげるためには、定期的な契約内容の見直しが必要です。

古い普通借家契約・賃料改定に関するよくある質問

Q普通借家の賃料は、すぐに相場まで上げられますか?

すぐ相場までは難しいのが実情です。賃料増額請求は制度上できますが、継続賃料の考え方があり、借主の協力を得て改定できても相場水準まで届かないことがほとんどです。

Q古い普通借家のテナントに、建替えのため出ていってもらえますか?

貸主の都合だけでは終了できません。正当事由が必要で、実務上は立退き交渉と立退料が前提になります。相場より安い賃料が続いていた場合、立退料が高額になりやすい点に注意が必要です。

Q立退料はどのくらいかかりますか?

ケースにより大きく異なります。引越・内装費だけでなく、営業継続利益や、現賃料と相場の差なども交渉材料になります。当社が関わった例では、当初家賃の数百ヶ月分を求められたこともあります。

Q普通借家を定期借家に切り替えられますか?

借主の合意があれば、切り替えを検討できる場合があります。ただし、一方的には切り替えられません。また、平成12年3月1日より前に締結された居住用建物の普通借家契約など、定期借家への切替に制限があるケースもあります。事業用か居住用か、契約時期や契約内容によって扱いが変わるため、個別確認が必要です。当社でも、こうした点を確認しながら、古い普通借家契約の切替を進めています。

Q定期借家にすると、入居者が集まりにくくなりませんか?

物件の競争力しだいです。立地や設備に魅力があれば大きな支障になりにくい一方、競争力の弱い物件では募集が不利になることもあります。出口方針と物件特性に応じた設計が大切です。

古い普通借家契約・賃料改定・建替え前の契約整理でお悩みのオーナー様へ

オリンピア興業では、商業ビル・事務所ビル・収益不動産を保有するオーナー様向けに、既存契約の整理、賃料改定の検討、建替え・売却を含めた出口方針の整理を行っています。

当社自身も多くの物件を保有・管理し、立退き交渉や定期借家への切替を実際に進めてきた立場から、実務に即してご相談に応じます。「昔からのテナントの賃料が相場より低い」「建替えたいが普通借家契約が残っている」「売却前に契約関係を整理したい」といった段階でもご相談ください。

不動産の管理・出口相談について相談する

※本記事は、一般的な不動産賃貸借契約・賃料改定・建替え時の考え方を整理したものです。個別の契約内容、法的判断、立退き交渉、賃料増減請求の可否、定期借家契約の成立要件・終了通知・再契約手続については、弁護士・不動産鑑定士等の専門家確認が必要となる場合があります。記事内の事例は、個人や物件が特定されないよう内容を一部変更・抽象化しています。

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